開閉物を、任意の開閉角度において静止状態を保つ機構の説明です。

基本の原理は3節スライドリンク機構で、そのスライド部に圧縮コイルばねを配置するものです。

この機構の目的は、開閉物の重量感を感じることなく、開閉動作を行うことにあります。
また、開閉角度において静止状態を保つことも重要な機能です。
ヒンジ(開閉装置)は、開閉物の自重によるモーメントに抗することによって、開閉物を閉めるときの衝撃をやわらげ、
機器全体の損傷を回避できることにもなります。

この事例では、複写機のADF(原稿自動送り装置)用に開発したヒンジを例にして話を進めます。 
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説明図(1) 【図1】にADFおよびヒンジが設置されたときの側面図を記します。
説明図(2)【図2】はヒンジ部分を記したものです。

左側はADFを閉めた状態、右側は任意の角度に開い
た状態です。

隠線処理はしていません。(業種によって判断基準
が違いますが、私はこの描き方で育ちました)


外見では1つの軸だけで回転する装置ですが、実際
には3つの軸があります。

軸(1)がヒンジの回転中心。
軸(2)、(3)はばねの荷重作用点です。

軸(2)と軸(3)との「距離」はヒンジの回転角度に
よって変化します。
また、軸(1)と軸(2)を結ぶ直線と、軸(2)と軸(3)を結ぶ直線によってできる「角度」も、ヒンジの回転角度によって変化します。
この「距離」と「角度」の変化でカウンターバランスヒンジのトルク特性を生み出します。
説明図(3)【図3】は【図2】を模式化したものです。

この図をもとにして計算式を作ります。

図中に赤色で記した4つの寸法は変数で、要求されるトルク特性に
応じた値を設定します。
説明図(4)n【図4】は【図3】と同じものですが、最終的に求めようとする値「h」
(図中の赤色)の計算式を作るための補助的な図です。

求めるトルクは 「h」×「ばね荷重」 となります。

途中の計算式を省略して結論だけを書くと、次の式になります。

h = R・sin(tan-1((Y3-B)/(X3-A))-tan-1(D/C)+θ))

R , Y3 , X3 には下記の式を代入します。
R = √(C2+D2)
Y3 = R・sin(tan-1(D/C)+θ)
X3 = R・cos(tan-1(D/C)+θ)
説明図(5)次に、ばねの取付け高さを求めます。

軸(2)と軸(3)の距離 「L23」 は次の式で求められます。

L23 = √((X3-A)2+(Y3-B)2)

X3 , Y3 は前述の値です。

「LSP」 は 「L23」 から、ばねガイドの寸法を差し引いた値です。

LSP = √((X3-A)2+(Y3-B)2)-LA-LB

そこで、ばね荷重 P は

P = (L-LSP)・k = (L-√((X3-A)2+(Y3-B)2)-LA-LB)・k

L : ばねの自由長 k : ばね定数
前述の通り、求めるトルク T は 「h」×「ばね荷重」ですから

T = (R・sin(tan-1((Y3-B)/(X3-A))-tan-1(D/C)+θ)))・(L-√((X3-A)2+(Y3-B)2)-LA-LB)・k
R = √(C2+D2)
Y3 = R・sin(tan-1(D/C)+θ)
X3 = R・cos(tan-1(D/C)+θ)

として求めることが出来ます。




では、具体的な数値を与えて計算します。
計算はこちら(右クリックから対象をファイルに保存を選択してダウンロードできます)の計算式を使います。
利用方法はこちらへ。
尚、この計算式は、自己の責においてご利用下さい。
説明図(6)
【図6】に示した数値の内、ADFの重心の位置は条件となる数値で、軸(1)を原点とした軸(2)、軸(3)の位置は数回の試行錯誤を繰り返した結果の数値です。
計算式によって得られたトルク特性が、下のグラフです。
説明図(7)
この曲線では、開角度13°付近および43°付近でADFの自重モーメントとヒンジのトルクが一致していることが解ります。

数値の一致した部分ではバランスがとれて、その開角度で静止できます。

実際にはばね荷重による摩擦力が発生しますので、ヒンジのトルクは幾分の幅を持ちます。
経験的には、約8°付近から55°付近までが静止の領域になりそうです。

0°では自重モーメントとヒンジのトルクの差が広がっていますが、ADFが原稿をコンタクトガラスに圧着するための力として、このようなトルク特性にします。



計算式の利用方法

ダウンロードしたファイルを開くと下記のような画面が現れます。
説明図(8)
ファイルを開いた直後は「軸間距離設定」というシートが開きます。
このシートの黄色で網掛された部分が変更可能な変数です。他のセルは保護されています。

「ばねの数」の部分を「2」としていますが、実際にはヒンジを2個使用しました。

緑色で網掛されたセルはばねの設計に関するもので、「圧縮コイルばね」のシートで設計します。
説明図(9)
こちらのシートも黄色の網掛部分が設定すべき変数です。
「材質」「線径」「両端研磨」についてはドロップダウンリストの中から選択して下さい。

B18、B19のセルに現される数値はばねの寿命に関するものです。詳しくはこちらへ。

「軸間距離の設定」と「圧縮コイルばね」の設定を繰り返しながら設計を進めます。