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2001年5月掲載


この考案は複写機の原稿自動送り装置(以下ADFと略します)の開閉装置に関するものです。

ADFとは、複写機のコンタクトガラスの上にある装置で、給紙口にセットされた原稿を1枚ずつコンタクトガラス上に搬送し、複写機本体での読み取りが終わると、排紙口へ自動的に排出する装置です。
複写機の中でも、中級機以上の機種に取り付けられることが多く、使用頻度の高いオフィスなどで利用されています。

ADFの重量はかなり重く、機種による差はありますが、通常5Kgfから15Kgf程度です。
このADFを開閉するときに、前述のような重量を感じることはほとんどありません。
これは、開閉装置のばねの荷重によってつりあいを保っているからです。


ADFはかなりの重量があるため、開閉角度内のほぼ全域で、開閉装置のばね荷重とのバランスをとり、
ほとんどの角度で、静止できるようになっている必要があります。(以下この機能を「フリーストップ」と表現します。)
これはADFを閉めるときの衝撃を少しでも小さくするためであり、またオペレーターの操作感を良好にするためでもあります。

ADF用の開閉装置ではフリーストップ機能は、なくてはならない機能なのです。


では、この開閉装置に要求される動作を説明します。

【図1】に記すような、通常の回転動作においては、ADFの自重モーメントと開閉装置の回転トルクは、ほぼ一致して、フリーストップ機能を果たします。


また、【図2】のように、厚い原稿を挟んだときには、ADFは略水平になってこの原稿を上から覆うような動作を必要とします。
従って、開閉装置は2つの回転軸を持つ必要があります。

これから先の説明では、通常の回転動作を行う軸を「軸A」、厚い原稿に対応するためのもう一方の軸を「軸B」とします。


上述のような、フリーストップ機能を有しているということは、「軸B」の回転ロックが全く制約を受けずに解除されると、厄介な問題を引き起こします。

【図3】はその説明で、通常の動作のとき、「軸B」はなんらかの手段で、回転をロックされているものとし、ロックが解除されると、「軸B」は制約を受けずに回転することができるものとします。

厄介な問題とは、厚い原稿を挟もうとする瞬間に発生します。

「軸B」の回転ロックが解除されると、ADFは自重によって反時計方向に回転して落下し、開閉装置は、その角度で有していた回転トルクにより、開方向へ回転しようとします。

その結果、右下の図のような現象が現れてしまいます。

ADFは重量が重いため、開閉装置の回転トルクも大きく、この現象が現れると衝撃に近い速度での誤動作になり、
機器全体の損傷や、原稿の破損、オペレーターのけがにもなりかねません。


そこで、「軸B」にある制約を与えます。

【図4】の左図の状態で、「軸B」にADFの自重を支えられるような回転トルクを与えると、「軸A」では【図4】の右図のように、これまで以上に大きなADFの自重モーメントが加わります。

「軸B」に、このような回転トルクがあれば、「軸A」では、開方向への回転ができなくなり、従って【図3】で説明したような現象から回避できます。
ここまでが、この開閉装置に対する考え方の第一段階です。


ここまでの説明の中で、「軸B」の回転ロック、という言葉が出てきましたが、この考案の中での「回転ロック」は、オン、オフの動作を行うような、デジタル的なものではありません。

「軸B」を中心とした回転トルクが、「軸B」の回転ロック、となります。

では、「軸B」が必要とする回転トルクの説明に移ります。

通常の回転動作において、【図5】のように、「軸A」「軸B」の両方にADFの自重モーメントが発生します。
「軸B」にはグラフの下の曲線よりも上回る回転トルクがあれば、回転ロックとしての役割を果たします。




しかし、必要以上に大きな回転トルクでは弊害が発生します。

【図6】のように、オペレーターはADFの先端を下方向に押し付けて水平に近い状態にしようとします。


「軸B」の回転トルクが大き過ぎると、ADFや複写機本体側に過大な負荷を与えてしまい、それぞれに、必要以上の剛性を要求されることになります。
このことは、技術的困難も伴いますが、過剰な品質が、コストアップにもつながってしまいます。
また、操作をするオペレーターも、その都度強い力をかけなければならず、複写するページ数が増えると、重労働になってきます。

つまり、「軸B」には、ADFの自重モーメントを僅かに上回る回転トルクが必要になってきます。
従って、「軸B」には、「軸A」と同様に、開閉装置の回転角度に応じた、回転トルクを発生させる構造が必要です。


では、「軸」Bの回転トルクを変化させる手段について、説明します。

【図7】はこの開閉装置の主要な部品を記したものです。


この機構は4節リンクになっています。
しかし、通常動作の時は、「軸A」、「軸A」、「軸A」の3節リンクの構造体で、【解説00−01】で説明した構造と全く同じ機能です。

一方、「軸B」は、「軸A」「軸A」との3節リンクの構造体としてとらえることができ、やはり【解説00−01】で説明した構造と同じように圧縮コイルばねの荷重変化と、その荷重のベクトル方向によって、回転トルクを有しています。

【図8】は、「軸B」の3節リンクの様子を抜き出したものです。
2点鎖線で描かれた状態が初期位置での3節の様子で、実線で描かれた状態が角度θ°回転したときの様子です。

「軸A」「軸A」「軸A」の3節リンクのような大きな変化はありません。
しかし、「軸A」と「軸A」との距離は変化します。
つまり、「圧縮コイルばね」の荷重を変化させています。

【図9】は、上記のリンクによって発生する回転トルクをグラフ化し、「軸B」でのADFの自重モーメントを重ね合わせたものです。


【図9】では、約10°から約40°あたりで、開閉装置の回転トルクの曲線とADFの自重モーメントの曲線は、ほぼ一定の間隔をもっています。
つまり、この間隔に相当する荷重を附加すれば、上述の範囲内では、両者のバランスがとれることになります。


さて、【図9】のグラフでは、【図7】に記されている「トーションコイルばね」の荷重は反映されていません。

【図10】は、【図9】のグラフに「トーションコイルばね」によるトルクを附加した、「軸B」の回転トルクとADFの自重モーメントを表したグラフです。

「トーションコイルばね」は通常動作のときには、ねじり角度は一定です。
従って、「トーションコイルばね」はどの角度においても一定の値を示します。

これで、約10°から約40°の間ではADFの自重モーメントと開閉装置の回転トルクがほぼ釣り合うようになります。


では、ここから「トーションコイルばね」の必要性について説明します。

「軸B」の軸間距離の設定を調整すれば、わざわざ「トーションコイルばね」を使用しなくても良さそうに見えますが、実は次に説明するような役割を果たしています。

【図11】は任意の厚さの原稿に対応して、ADFを略水平にしたときの開閉装置の様子です。
下段の図は、そのときの4節リンクの状態と、「トーションコイルばね」の変化の様子を抜き出したものです。


3節のリンク機構はほぼ直線に近い状態に近づいていきます。
つまり、「圧縮コイルばね」の荷重方向と「軸B」「軸A」の方向が一致する方向に向かってしまい、3節リンクによる回転トルクはどんどん減少していきます。
(右下図の状態では、僅かにマイナス方向の回転トルクが発生するような状態になっています)

これに対して、「トーションコイルばね」は徐々にねじり角度が増えて、「軸B」の回転トルクを増加するような変化をしています。
「トーションコイルばね」は、3節リンクによる回転トルクの減少分を補い、かつ、ADFの自重モーメントの増加分を補う役割を果たします。

今、右下図の状態では、3節リンクによる回転トルクはほぼ「ゼロ」ですから、この状態での「トーションコイルばね」のねじりトルクが、ADFの自重モーメントに釣り合うように設定すれば良いことになります。


では、具体的な数値を入れた説明をします。

【図12】は本解説での設定値です。
(表示を省略している部品が数点あります。)

上段の図はADFが閉じているときの設定値で、下段の図はADFを40°まで開いた後、ADFを水平に移動させたものです。


【図13】は上記の設定値をもとに、ここまで個別に説明してきた特性をまとめたものです。
(計算式については、calc_01を参照して下さい。)


通常の回転動作のとき、「軸A」では、8°以降のほぼ全域で「フリーストップ」が期待できそうです。

また、「軸B」の開閉装置の回転トルクは常にADFの自重モーメントを上回っています。

この中で、45°よりも開いたときにはその差がだんだんに大きくなって、水平への動作が移行しにくくなっていますが、このような角度から「軸B」を回転させなければいけないような厚い原稿はほとんどありません。

また、10°以下も同様にその差が広がる傾向ですが、ADFはほぼ閉っている状態、つまり略水平になっていますから、あらためて水平にする必要はありません。


【図14】は【図12】下段の図の変化をするときの、「軸A1」「軸B」でのADFの自重モーメント、開閉装置の回転トルクをグラフ化したものです。
(計算式については、calc_02を参照して下さい。)



グラフの横軸はADFが水平方向に移動しようとする角度です。
つまり、0°は通常の回転動作の状態で、40°がADFを水平にした状態になります。

「軸A」、「軸B」ともにADFの自重モーメントとほぼつりあっていて、スムーズな動作を期待できます。


<終わり>


ご注意

  本解説はあくまで基本原理についての説明です。製品化のためのノウハウについては記述していません。
  従って、この解説のままのコピーを作成してもうまく動作しないこともありますので予めご了承下さい。